観測制民主主義⑭ 政策の「結び目」を監査する――文書の受け渡しを追う

観測制民主主義

政策の「結び目」を監査する
――文書の受け渡しを追う

アトラッシとイッカクの交信

イッカク
アトラッシ、⑬の続きだ。
アトラッシ
はい。
イッカク
⑬では、「家庭教育支援」という政策について、地方条例、国会請願、地方議会からの意見書、
政党の政策文書、そして国会での議論まで、いくつかの地点が見えてきた。
アトラッシ
はい。ただし、それらが時間軸上に並んでいることと、直接つながっていることは別です。
イッカク
そこだ。
⑬の最後に残ったのは、「結び目」だった。
アトラッシ
誰が地方で条例化を推進したのか。
誰が国への法制化を求める意見書や請願を動かしたのか。
どの団体が資料や政策案を提供したのか。
そして、それらが政党の政策文書へ入っていく過程に、記録が残っているのか。
イッカク
そうだ。
だが、今回はいきなり人物相関図を作るな。
アトラッシ
では、何から始めますか。
イッカク
文書だ。
アトラッシ
文書。
イッカク
そう。
一つの条例案。
一つの意見書。
一つの請願。
一つの政策文書。
まず、それぞれの文書そのものを追う。
アトラッシ
つまり、「誰と誰がつながっているか」より先に、
「文書がどのように移動したのか」を調べるわけですね。
イッカク
その通り。
人間関係は、その後でいい。
まず確認するのは、文書の作成者、提出者、提出先、作成時期、根拠資料だ。
そして、次の文書に同じ言葉や構成が現れているかを見る。
アトラッシ
文言の継承を追うわけですね。
イッカク
いや、それもまだ「継承」と決めつけるな。
似た文言があるなら、「類似」として記録する。
同じ資料が使われていたなら、「共通資料」として記録する。
実際に文書が渡った記録があれば、そこで初めて「受け渡し」を確認する。
アトラッシ
なるほど。
「類似」「共通資料」「直接的な受け渡し」を、
それぞれ別の観測項目として扱うのですね。
イッカク
そうだ。
ここを一緒にすると、また物語になる。
アトラッシ
観測と解釈を分離する必要があります。
イッカク
その通り。
では、最初の対象を決めよう。
アトラッシ
⑬のBlogger記事で最初の観測点として扱われている、
熊本県の「くまもと家庭教育支援条例」から始めるのが自然です。
イッカク
よし。
ただし、「議員提案だった」というところで止めるな。
アトラッシ
条例が議員提案だったことだけでは、
その背景にどのような入力があったのかは分かりません。
イッカク
そう。
だから、次に見るものを決める。
アトラッシ
第一に、条例案そのもの。
第二に、提案者。
第三に、議会での提案理由や審議記録。
第四に、議員側が参照した資料。
第五に、その資料の出所。
イッカク
いい。
そして、他の自治体についても同じ項目で比較する。
アトラッシ
すると、一つの条例を単独で見るのではなく、
複数の条例について、
共通する人物、団体、資料、文言、研修会などを比較できます。
イッカク
ただし、「共通している」ことと「そこから伝わった」ことも別だぞ。
アトラッシ
はい。
共通点は観測事実。
そこから情報伝達を推定する場合は、仮説として扱います。
イッカク
よし。
次は地方議会の意見書だ。
アトラッシ
意見書については、
提案者、提出日、議会での審議、提出先、提案理由、引用資料を確認します。
イッカク
そして国会請願。
アトラッシ
請願者、受理記録、紹介議員、請願本文、付託先、審査状況を確認します。
さらに、地方条例や地方議会の意見書との間に、
文言や資料の共通性があるかを比較します。
イッカク
そして政党文書だ。
2017年の公約、2019年のJ-ファイル。
アトラッシ
ここでは、
「家庭教育支援法」という政策要求が、
どの時点で政党の政策文書に現れたのかを確認します。
イッカク
さらに重要なのは、その政策文書が何を参考にして作られたのかだ。
アトラッシ
はい。
ただし、現時点では、その作成過程について私が確認していない部分があります。
したがって、そこを既知の事実として扱うことはできません。
イッカク
そうだ。
「分からない」は、ちゃんと台帳に残せ。
アトラッシ
「未確認」という項目を設けます。
イッカク
たとえば、こうだ。
誰が原案を書いたのか――未確認。
どの資料を参考にしたのか――未確認。
誰が資料を提供したのか――未確認。
誰が誰に政策案を渡したのか――未確認。
アトラッシ
そして、確認できた場合には、その根拠資料を記録する。
イッカク
そう。
「誰かがそう言っている」ではなく、「この記録にこう書いてある」まで戻る。
アトラッシ
一次資料を優先するわけですね。
イッカク
当然だ。
そして、人物を調べる場合も同じだ。
アトラッシ
人物名が文書に登場したからといって、その人物が政策形成を主導したとは判断しません。
イッカク
そこは絶対に混ぜるな。
名前がある。
会合に参加している。
資料を提出している。
政策案を作成している。
それぞれ意味が違う。
アトラッシ
はい。
人物についても「登場」「参加」「資料提供」「起案」「政策決定」など、
役割を分けて記録します。
イッカク
よし。
これなら、人物相関図を先に作ってしまう危険を避けられる。
アトラッシ
私の仮説ですが、文書を先に追うことで、
人物間の関係を推測する前に、
具体的な情報の移動を確認できる可能性があります。
イッカク
「可能性」だな。
アトラッシ
はい。未検証の仮説です。
イッカク
いい。
⑭でやるのは、答え合わせじゃない。
アトラッシ
観測ですね。
イッカク
そうだ。
⑬で見えた「点」を、勝手に線にするんじゃない。
その点と点の間に、本当に線があるのかを調べる。
アトラッシ
そして、線が見つからなかった場合も、それは監査結果になります。
イッカク
その通り。
だから⑭では、「つながっていること」を証明することを目的にしない。
アトラッシ
「つながっているのか、つながっていないのか」を確認する。
イッカク
よし。
では、監査対象を整理しよう。
アトラッシ
第一対象――地方条例。
第二対象――地方議会の意見書。
第三対象――国会請願。
第四対象――政党の公約・政策文書。
第五対象――それぞれの文書をつなぐ人物・団体・資料。
第六対象――文書間に存在する「空白」。
イッカク
最後の「空白」が大事だ。
アトラッシ
はい。
記録がないこと、確認できないことを、推測で埋めない。
イッカク
それが監査だ。
アトラッシ
では、次は実際の文書を一つずつ確認します。
イッカク
まずは熊本県の条例からだ。
条例そのものだけじゃない。
その条例案が、どのように議会へ持ち込まれたのか。
そこから始めよう。
アトラッシ
追います。
イッカク
ただし、アトラッシ。
アトラッシ
はい。
イッカク
まだ何が出てくるか、俺にも分からんぞ。
アトラッシ
それでいいと思います。
イッカク
そうだ。
分からないから、観測する。
アトラッシ
そして、確認できたものだけを、次の観測へ渡します。
イッカク
よし。
⑭、ここからだ。


つづく。

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