第8回:制度の語りを可視化する技法 ──図解・言語・メタファー

制度設計と国民生活

第8回:制度の語りを可視化する技法──図解・言語・メタファー

こんにちは、\イッカクです/
前回は、「制度の語りに市民が介入することで、
制度が公共性を帯びる」という話をしました。
制度は、誰かが一方的につくるものではなく、
市民の語りが挿入されることで初めて、
社会の器として機能する──そんな構造を見てきました。

でも、こう思いませんか?
「制度に語りかけるって、どうやるの?」
「そもそも制度って、どこにあるの?誰が語ってるの?」

そうなんです。
制度は、見えづらい。
そして語りづらい。
だから今回は、制度の語りを市民が“手に取る”ための技法について、
一緒に考えてみたいと思います。

制度の語りは、なぜ手に取れないのか

制度って、いつも遠くにある気がしませんか。
「文化的適応力」「地域との共生」「制度的整合性」
──そんな言葉で語られても、
私たちの暮らしとどうつながっているのか、ピンと来ない。

でも、制度は確実に私たちの生活に影響を与えています。
住まいが変わり、隣人が変わり、山が削られ、水が売られる。
それなのに、その語りには、私たちの言葉が入っていない。

制度の語りは、抽象語で覆われている限り、
市民の生活実感を反映しません。
だからこそ、
制度の語りに具体的な言葉を持ち込む技法が必要なんです。

 

技法1:図解──制度の構造を描いてみる

まずは、制度の構造を「図」にしてみましょう。
制度って、誰が決めて、誰が運用して、誰が困るのか
──その流れを描くことで、見えてくるものがあります。

たとえば、鹿児島県が県営住宅を
外国人労働者に提供するという方針。
この話、ニュースで見たとき、どう思いましたか?

「え、順番待ちしてる人はどうなるの?」
「地域の人たちに説明はあったの?」
「誰が決めたの?」

こうした疑問は、
制度の構造を描くことで整理できます。
図にすれば、
決定の流れ、
影響の範囲、
説明責任の所在が見えてくる。
図解は、制度の「力の流れ」を市民が把握するための技法です。

制度は、構造を描いて初めて、語れる対象になるのです。

例えば、上記の例では

制度決定の上流構造
↓(政策決定)
鹿児島県行政(知事・担当部局)
↓(方針策定)
外国人労働者受け入れ政策(労働力確保)
↓(住宅提供方針)
県営住宅の優先提供制度化

影響を受ける市民層(順番待ちの住民・地域住民)

疑問・不満・説明要求(誰が決めた?説明は?公平性は?)

説明責任の所在(行政・議会・地域協議会)

市民的制度再設計の必要性(熟議・透明化・合意形成)

という、大よその図解になります。

ちなみに、全国の自治体に共通する制度構造は
1. 行政主導の方針決定

・知事・市長・担当部局が政策を策定←(ココが問い合わせ先です!)
・議会や住民との熟議を経ずに、実施へと進むケースが多い
2. 説明責任の不在
・「誰が決めたのか」「地域に説明はあったのか」が不明確
・パブリックコメントや住民説明会が形式的に終わることも
3. 影響の不均衡
・特定の層(外国人、業者、企業など)に制度が優先され
・地域住民や既存の順番待ち層が不利益を被る構造
4. 市民のアクセス困難
・制度の構造が見えないため、どこに問いを向ければよいか分からない
・結果として、制度が「行政のもの」として閉鎖される
という構造になってるようです。

技法2:言語──制度文言を市民語に翻訳する

次に、制度の言葉を
「市民の言葉」に翻訳してみましょう。
制度は言葉で運用されます。
でも、その言葉は、私たちの日常とは遠い。

たとえば、こんな文言があります:

「申請者は地域社会との文化的適応力を有することが望ましい」

これ、どういう意味でしょう?
市民語にすると、こうなります:

「その人が、地域のルールや暮らし方にちゃんと
合わせられるかどうかを見る」ってことです。

どうでしょう?少し近づいた気がしませんか。
制度文言を市民語に翻訳することで、
制度の判断基準が手に取れるようになります。
それは、制度へのアクセス権を広げる行為でもあるんです。

制度の語りを市民語にすることは、
制度の設計思想に市民の倫理を挿入することでもあります。

下記の表は制度語 → 市民語 変換一覧です。

制度語(行政・政治の語り)市民語(生活・納得の問い)
地域活性化地元の人の暮らしは本当に良くなるの?誰が得して誰が困るの?
財政健全化それって誰の生活を削って成り立ってるの?
効率的運用住民の声は聞かれた?現場は混乱してない?
多様性の尊重地域の人たちとの関係はどうなるの?共に暮らせる仕組みはある?
国際競争力の強化そのために市民の生活が犠牲になってない?
社会的要請誰が要請したの?住民は納得してる?
持続可能な制度設計それって誰にとって持続可能なの?市民の生活は守られてる?
公平な負担本当に収入に応じて負担してる?低所得者が苦しんでない?
民間活力の導入業者が得するだけで、市民の声は届いてる?
地方創生地元の人が決めてる?それとも外から押し付けられてる?
行政判断誰が決めたの?説明はあった?
合理的判断その「合理」は誰の視点?市民の納得はある?
透明性の確保どこで、誰が、どうやって説明してるの?
公共性の担保市民の声が反映されてる?それとも制度の都合?
社会保障の安定化その安定って、誰のため?支援が減ってない?
税制改革生活費は増える?収入に対してどれだけ負担が増える?
外国人労働者の受け入れ地元の人の住宅はどうなるの?順番待ちの人は?
住民理解の促進それって説明しただけ?納得は得られてる?
パブリックコメント実施意見は反映された?ただ集めただけじゃない?
住民説明会開催一方的な説明じゃなかった?質問に答えてくれた?

みなさんも、制度語を見かけたら、市民語に置き換えて
考えてみてください。

技法3:メタファー──制度の本質を比喩で捉える

最後に、制度の語りを「比喩」で捉えてみましょう。
制度は見えづらい。
でも、比喩は制度の本質を感覚的に伝えてくれます。

たとえば、
太陽光パネル設置による森林伐採問題。
制度は「再生可能エネルギー推進」と語られますが、実態は山の破壊です。

市民の語りは、こうなります:

「環境政策という名のブルドーザー」
「太陽光パネルは、地域の皮膚に貼られた巨大な絆創膏」

どうでしょう?
制度の語りの裏にある力学が、少し見えてきませんか。

メタファーは、制度の語りを暴く技法です。
そして、制度の本質に触れるための市民的感覚でもあります。

 

市民の叫びは、制度批評の入口になる

制度の語りを可視化するとは、
制度を市民が語り直すこと。
その語り直しは、叫びとして現れます。

「なんで順番待ちしてる人より、急に来た人が先に入れるの?」
「うちらの水を、勝手に売らないでくれ」
「木を切って、山崩して、パネル置いて、誰が得するの?」

これらの叫びは、
制度の構造・言語・倫理を問い直す市民的技法です。
叫びは、制度批評の入口であり、再設計の出発点なんです。

 

制度の語りを手に取るとは、語り直す技法を持つこと

制度は語りによって設計され、
語りによって育てられます。
市民が制度の語りに介入するには、
構造を描き、言葉を翻訳し、比喩で捉える技法が必要です。

制度の語りを手に取るとは、
制度を語り直す技法を持つこと。
その技法が、市民の倫理と生活実感を制度に挿入する力となります。

次回は、制度の語りを再設計する技法
──市民が制度を描き直すための構造設計へと踏み込みます。
制度を批評するだけでなく、
制度をつくる主体になるために、
どんな言葉と構造が必要なのか。 一緒に考えていきましょう。

 
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